
ワールドスタンダード/鈴木惣一烽フ 実録!モンドくん日記
「趣味を軽く扱うな。趣味は選択であり、その人の生き方につながる」。ハリーの名著『地平線の階段』からスーザン・ソンタグ氏の引用です。ホントその通りで、音楽にまつわることすべてが僕のお仕事であり、全くの趣味。だから毎日がお遊びでお仕事。ですから、たのしくたのしく疲れます。この「モンドくん日記」は基本的に僕が毎日、何を見て、聞いて、買って、読んで、何を感じたか?それだけを記したものです。けれど、その記述だけで僕自身の全人格、生き方がわかります。わかるはずです。すべて実録いやホント。気軽に毎週ウォッチングしてみてください。さあ、今日から貴方もモンドくんウォッチャーだ!。(鈴木惣一朗/worldstandard)
初夏のモンドくんコラム
今年の5月や6月はこんな風だった。森の中をずっと歩いている、ようなものなのだと。今のぼくはそうなのだと思う。ダニエル・リトルトンの素晴らしい新作『NOBODY'S FAULT BUT MINE』を聴きながら、マックの前で、今、そう思う。森はいつまでも続くわけはないだろう。森の終わりには何があるのだろう。そんな気持ちで歩く。周りの景色にひとつひとつ関心を持ちながら、丁寧に進む。時に、音楽の仲間たちと一緒に歩き、またひとりとなり、歩き、心地よい木々を見つければ、再び友を呼び、そこで休み、当然のように音楽のことになり、手持ちの楽器を持ち寄り、軽く奏でる。それは、時に記録として録音された。JUST FOR THE RECORD (ちょっと録っておこうよ)の精神で、ぼくは仲間たちと音楽を記録する。どんな形で発表するか否かは解らず、記録は続く。いつか、皆さんにも聴いて頂ける日が来るといいな、と思いながら、ワールドスタンダードの記録は続いている。
音楽という深い森を、自分のいつものペ−スよりは少し早めに、歩いている。今年はそうしようと決めた、自分の意志もあるけれど、いろいろな事象がからみ合い、オファーされ、必然的にそうなったとも言える。こんな感じは、今までのぼくの呑気? な音楽人生にしては珍しい。珍しい季節に突入したから、精一杯楽しもうとしている、ただそれだけなのだ。ある人からは「まさか、生き急いでいる?」とすら言われたが、音楽の森の中を早足で通り抜けたいという気持ちと、いつまでも歩いていたいという気持ちが交差する。でも、いつもこころの中で、森はいつまでも続くわけはないだろう、森の終わりには何があるのだろう、と思っている。だから、今はひとつひとつの作品や宴に集中する。それが精一杯だ。
元来、お喋りだし、音楽をこうして話すこと、こうして綴ることが好きだ。音楽家は、その生活すべてが音楽なのだというのが持論。だから、「モンドくん日記」の更新が遅れることは、いつも気になっていた。でも、今年のおかしな装いの夏に、音楽のすべてに集中したい。今年はそうなのだ。音楽家は、音楽ですべてを語るのがプロ、やっぱりそういうことだろう、と開き直り、音の中に没頭したい気持ちが自分を強くさせる。今年のペースの早さは、音楽家としての、ぼくの変化。今のすべてのプロジェクトが落ち着いたら、再び、日記を再開できるだろうか。そんな気持ちもある。けれど、今は、今の自分を取り巻く音楽のすべてをサウンドとして、作品やパフォーマンスにすることに集中したい。正直、今はそんな気持ちだ。

今年の5月や6月、ぼくと音楽の出会いは良いバランスでとてもいい。ディスティニーズ・チャイルドの衝撃のステージ(本当にビヨンセは全盛期のティナ・ターナーのよう。本当に凄い)。ワールドスタンダードの楽しいストア・イベント(関係者のみなさん、お疲れさまでした)。渡辺亨さんとの出会い(初めて御会いしましたが、やはり素晴らしい音楽バランスの持ち主)。EMIのスタジオで聴いた湯川潮音さんの素晴らしい歌声(まだわかりませんが、彼女のプロデュースをやるかもしれません)。コラボレーション・シリーズ「FUTARI」のライヴ(素晴らしい音楽家、ゴローさん、青柳くん、出会えてぼくは幸せものです)、そして、ダニエル・リトルトン! 遂に現われた珠玉の音楽家、その音楽のすべてに惚れました。ピーター・フォンダ監督作品/映画「さすらいのカウボーイ」の素晴らしさ(8/10のプレミア・ショー、シネセゾンで実はぼく、その音楽を手掛けたブルース・ラングホーンさんの音楽を高田漣くんと演奏します)。オースチンからやって来た、ホット・クラヴ・オブ・カウターン(渋谷のクアトロで6/3に見ましたが、本当に堪能しました)。カーネーションの直枝くんとの出会い(20年という歳月を超え、やっと会えました、とても他人とは思えぬ彼のポップス魂に、いつか一緒にアルバムを作ろうと思わず言ってしまいました。カッティング・エッジに移籍したそうです)。SOB-A-MBIENTという謎のコンピの仕事(まだ内密にということで、よろしくお楽しみに)。そして6/27。渋谷AX/はっぴいえんどトリビュートの、あのライヴ…。自分のこころに内と外はなく、すべては音に変換され、サウンドとして響いた。言葉に置き換えなくても、わかるだろう。
随分、以前にも一度登場したが、音楽仲間のドラムのゲンくんが、こんなことを自分のホームページで書いてくれた。引用させて頂き、今月のコラムはおしまい。では来月。
「言葉をたくさん並べて伝えることと、なにもしゃべらず伝える事とはいったいどちらが難しいのだろう。それはきっとその人がもつ特性に左右されるのかもしれないと思いつつ、僕はワールドスタンダードを考えるとき、いつもキリスト的だと思ってしまう。ユダヤ教が614項目にも及ぶモーセ十戒の行い(業)を信仰とするのに対して、キリスト教はただ一つ、神やイエスキリストへの思いを純粋に持つことのみを信仰としているからだ。惣一朗さんは、楽曲に対して形でアプローチをするのではなく、心の中の想いや音色の美しさ、強弱で、音楽の恵みに興ずる。プレイアビリティーやパフォーマンスの脅迫を逃れ、音楽は現実、ワールドスタンダードの音の波紋にしずかに埋もれるようだ。」
モンドくん、今、好んで聴いてる音源:
ダニエル・リトルトン『NOBODY'S FAULT BUT MINE』
ダニエル・リトルトン&タラ・ジェーン・オニール『MUSIC FOR A METEOR SHOWER』
ダニエル・リトルトン&エリザヴェス・ミッチェル『YOU ARE MY FLOWER』
ランディ・ニューマン『ラグタイム』『グッド・オールド・ボーイ』(共にリマスター盤)
スタンリー・スミス『イン・ザ・ランド・オブ・ドリームズ』(来日決定!10/20青山CAY)
オリジナル・サウンド・トラック盤『チェルシー・ウォールズ』