
ワールドスタンダード/鈴木惣一烽フ 実録!モンドくん日記
「趣味を軽く扱うな。趣味は選択であり、その人の生き方につながる」。ハリーの名著『地平線の階段』からスーザン・ソンタグ氏の引用です。ホントその通りで、音楽にまつわることすべてが僕のお仕事であり、全くの趣味。だから毎日がお遊びでお仕事。ですから、たのしくたのしく疲れます。この「モンドくん日記」は基本的に僕が毎日、何を見て、聞いて、買って、読んで、何を感じたか?それだけを記したものです。けれど、その記述だけで僕自身の全人格、生き方がわかります。わかるはずです。すべて実録いやホント。気軽に毎週ウォッチングしてみてください。さあ、今日から貴方もモンドくんウォッチャーだ!。(鈴木惣一朗/worldstandard)
TAK SINDO/オーディオ・パーク週間
4/9(月)
リトル・クリチャーズ青柳くんとメールで、こころ交わす。お互いのシステムの確認、お互いの音の交換などを約束しあう。音楽仲間が増えた。よし、一緒に音楽しよう。
頂き物音源........リトル・クリチャーズ『フューチャー・ショッキング・ピンク』、KAMA AINA『タイムレス・メロディー』
4/10(火)4/11(水)4/12(木)
ジャパンというバンドには『クワイエット・ライフ』というアルバムがあるけれど、今のぼくは5月からの怒濤の生活を前にして、実にクワイエットだ。家で出来る仕事が多く、自分のペースで一日一日が流れてゆく。季節も毎日、春で、家の庭の桜もきれいだ。この前、青山/ティンバーランドのトレッキング・シューズを買ったので、毎日、歩くのもうれしい。素朴な日々だ。この3日間は、まさにそんなフォーキーな感じだった。
4/13(金)
福岡史朗くん、ゲンさん、我が家に呼ぶ。アルバムの正式タイトルを『TO GO』に決定する。TO GOとは、英語ではトゥー・ゴー。ロマ字読みするとトー・ゴーとなる。トーゴーとは福岡くんの息子さんの名前。そのダブル・ミーニング。ぼくは、いつも、当然、プロデュースするアーティストのプライベートまで知った上で、サウンド作りに入る。一体、そのひとがどういう環境や人間関係にあるのかわからなければ、ぼくが音を積むことは出来ない。「どうしたいのか?どうしてその音にしたいのか?そして、どんな風なアルバムを目指すのか?」。その裏側には、いろいろな事象が絡んでいる。一枚のアルバムを作るということは、作っている間、その事象を掘り下げる作業に終始すると言ってもいい。自分で何が作りたいのかわからないと言うアーティストもいる。けれど、いつも答えは、そのひとの過去や記憶に眠っている。それをゆっくり急いで紐解き、「今」という時間を共有するぼくたちの役割りを考える。何をどうすれば、みんなで楽しくやれるか。そんな当たり前のことだ。CDとなった商品をユーザーがどんな気持ちで嬉しく受け止めるのか。そんなことだ。そんなことばかり考えながら、アルバム作りは進む。福岡くんについての命題...。彼が日々、家庭にいる主夫であること、息子さんがいること、そして、30才過ぎの充分な大人であることから、ラヴ・ソングの意味は、恋愛というより、もっと「おおきな愛」というテーマに変わっている、それらすべてを公にするか、オミットするかずっと悩んだ。ジョン・レノンのようなメジャー・アーティストなら、何をやってもアーティスト・バリューで、メディアはヒップと捕えてくれる。けれど、福岡くんは無名だ。無名のアーティストに、この現実感、生活感を背負わせることに悩んだ。つまらない偏見を持つひともいる。ならば、そうした側面を出さないほうがいいという考え方もある。でも、福岡くんは何もこだわっていない。全くもっていつも自然体なのだ。ほとんどのアンサーは「それで、いきましょう」。ニコニコしている。すごい男だ。何をどうするかは、完全にぼくのジャッジに委ねられた。だから、ぼくは「そのまま」の道を選んだ。何も隠さず、何も装飾せず、世に出すのだ。J-POPの世界では、こうしたやり方にはリスクが伴うと言われる。ぼくのアプローチはいつも早すぎると言われる。リスナーの耳の成熟は、まだまだ幼いと見られているのだ。ユーザー、リスナーの耳の成熟?。そんなことなんて考えたことない。みんな実はちゃんと聴いてる。音楽はパッションで伝わるものだ。だから、音楽の仕事には可能性があるのだと思う。ぼくはただただ、夢中な音をやるだけ。「そのまま」の道。福岡くんの「そのまま」の道。だから、タイトルは『TO GO』でいいと思う。ジャケットにはトーゴーくんをカートに乗せ、ロンサムに押す福岡くんのショットを使う。それでいいと思う。「そのまま」の道のままでいい。そうやって伝わってゆけるはずだ。打ち合わせの間、そんなことをずっと考えていた。
4/14(土)
今日は実は、面白い日で、深沢の「オーディオ・パーク」というホール(個人所有)へ出掛けた。怪しいコンサートがあるのである。誰の?。都家歌六師匠である。そう、あの、のこぎりヴァイオリンの日本で唯一のプロフェッショナル、歌六師匠である。ぼくは、かつて、東京ムラムラを手伝っていた時、師匠と出会い、ソニーの『星めぐりのうた』というトリビュート盤にも参加してもらった。日本一の落語のSP盤のコレクターでもあり、戦前のクラシック音源への造詣も深い。6年程、御会いしてなかったが、年賀状や、いつも案内を送ってくれて、ぼくはずっと再会を楽しみにしていた。今日が再会の日だ。ノアルイズののこぎりヴァイオリン奏者、モリタくんも連れてゆく。師匠に紹介するためだ。会場は、50人も入れば、満杯という感じのロフトっぽいところで、20人ほど、ゆるい感じで年輩の方々がいらっしゃる。師匠は、まず細野さんも好き?なフローレンス・ジェンキンスというミセス・ミラーと並ぶ音痴おばさんの音楽高座を軽快に飛ばしていた。空いている席に座り、しばし高座鑑賞。休憩時間となり、ぼくはすぐに師匠に駆け寄った。「師匠。鈴木です。おひさしぶりです」「あれま。そうなの、鈴木さん、お元気?」。ぼくは、モリタくんを紹介し、一体、この会場は何なのかと訪ねた。何しろ、100台以上の蓄音機が会場に並んでいるのだ。SP盤もズラリ並んでいる。「ここはね、寺田さんの家」、師匠は言う。寺田繁さんは、何と無類のオーディオ・マニアで自宅をホールに改造してしまったという。ぼくは、壁に飾ってある一枚の写真が気になった。TAK SINDOがにこやかに微笑んでいる。TAK SINDO!。そう、1950年代のエキゾ王のひとり、デニーやバクスターと並ぶモンド・アレンジャー/TAK SINDOだ。寺田さんは何と、その息子さんなのだ。お正月には毎年、今でも、御本人も帰ってくるという。いやあ、すごい場所に迷いこんでしまった。休憩は終わり、いよいよ、ひさびさの歌六師匠の演奏だ。師匠は、ライト・クラシックを8曲ほどやってくれた。いい。実にいい。音が優しい。ぼくが言うのもおこがましいけれど、6年前と比べて格段に繊細なタッチ。グノーの「アベ・マリア」は6年前も聴いたけれど、崇高な世界にまで純化していた。感激した。師匠と、その後、4月25日リリースの『全集日本吹き込み事始』(全11枚入り)のことを話した。1903年、日本のレコード録音の原点の音源だ。師匠は監修者として、この偉業を成し遂げたという。早速、ぼくは直接予約した。「ぼくから買えばね、一割引きだから」とニコニコしている師匠。再会を約束し(実際に6月某日、ノアルイズ・マーロン・タイツと歌六師匠は一緒にコンサートを開くこと決定。詳細は後日..。)、ビールに合うという不思議なおだんごをたくさんもらい、食べ、オーディオ・パーク(問い合わせ先..03-3704-9110)を後にした。今度はSP盤のレコード・コンサートの日に来ようと思う。オーディオ・パークがある深沢は緑が多くて、きれいな街。良いところだ。

4/15(日)
渋谷ハイファイ・レコードへ。ノアルイズの録音日。今日はロバート・クラムのナンバーでも有名な「ホーム」という大好きな曲の録音。すごくマッタリとルーミィーにインティメイトに演奏する。森田くんののこぎりも、昨日の歌六師匠のオーラーに影響を受け、実に繊細な音。誘ってよかった。いつものライヴとは違った、良い感じに今日は録れたと思う。帰りにはウクレレの大島くんとふたり、味の素が大量に混入して、それが旨いという「兆楽」という宇田川交番の近くの中華料理屋で、みそそばを食べ、少し飲んで談笑。大島くんは、近所の爺さんのような感じで、ぼくはとても一回り近く年下の男とは思えない。面白い男だ。今度、というか年内中にぼくの家の隣駅に越してくるという。飲み仲間がまた増える。夜も暖かくなって身体が楽だ。
購入音源......ボブ・マーリィー&ウエイラーズ『キャッチ・ア・ファイヤー、デラックス・ヴァージョン』