
ワールドスタンダード/鈴木惣一烽フ 実録!モンドくん日記
「趣味を軽く扱うな。趣味は選択であり、その人の生き方につながる」。ハリーの名著『地平線の階段』からスーザン・ソンタグ氏の引用です。ホントその通りで、音楽にまつわることすべてが僕のお仕事であり、全くの趣味。だから毎日がお遊びでお仕事。ですから、たのしくたのしく疲れます。この「モンドくん日記」は基本的に僕が毎日、何を見て、聞いて、買って、読んで、何を感じたか?それだけを記したものです。けれど、その記述だけで僕自身の全人格、生き方がわかります。わかるはずです。すべて実録いやホント。気軽に毎週ウォッチングしてみてください。さあ、今日から貴方もモンドくんウォッチャーだ!。(鈴木惣一朗/worldstandard)
凱旋コンサート週間
4/1(日)
エイプリル・フール。日曜日、ノアルイズのリハーサルである。青山CAY での凱旋ライヴに向けてのリハである。そのためもあり、道玄坂のヤマハで新しいブラシを買う。最も手にあっていたものはテキサス、オースチンの見知らぬ客人にあげてしまった。いつも使っているのは、ジルジャンというメーカーのもの。シンバルで有名なところだが、ここのブラシがぼくの手には合っている。何処が、というと微妙だが、自分の演奏フォームが作りやすい。因に、スティックはリヴォン・ヘルム・モデルというか、来日時、リヴォンさんから直々に頂いたマ−チング・スネア用のスティック。軽くて、細く、短い。これで、あの大きなドラムをリヴォンさんは叩く。小さく大きく、叩く。楽器とは、そうやって鳴らすものなのだと、このスティックから教えられた。楽器は何でもそうだけど、手に身体に馴染むまで時間がかかる。触らなければダメで、触るほどに、使いやすく、良い音になる。だから、そうやって磨き上げたドラムのヘッドなども、ぼくはボロボロになるまで使う。何年も、何十年も使う(ストーンズのチャーリー・ワッツなんて、今でもデビューの頃のスネア・ヘッドを使うはずだ。凄すぎる)。ぼくは、ギターの弦なんて、絶対、変えない。切れるまでが、ぼくと、ギターの弦との時間、関係なのだと思っている。ぼくだけじゃなくて、音楽家の部屋には必ず、そんな使い込んだ逸品が置いてあるものだ。何年も弾き続けている楽器が必ずある。そんな部屋には人格が宿る。楽器という人格が、まるで懐かしい住人のように、そこにある。だから、そんな部屋はどこか居心地がいい。空気が揺れている気がする。
4/2(月)
おかげさまで、ぼくが監修した『フォーキー・リラクシン』好評につき、P-VINEで、新しいコンピレーションをやることとなった。その音源準備、テーマ決めなどが始まる。発売は7月上旬に設定した。未知の音源を聴くのは好きだ。真っ白なまま、音に向かう。知識や偏見がない音源は、そのコアな時間がいつも真剣勝負だ。いくつか気にいった曲がこころに残る。有名無名、全く関係ない。いい感じだなと思ったもののみ、正直にメモしてゆく。どんどん音源を聴く。メモが貯まってゆく。膨大な音源をすべて聴き終えた頃には、ぼくの頭の中に、うっすらと、自分のストーリーが出来ている。そして、テーマが見えてくる。タイトルが浮かぶ。監修や選曲とは、こういう仕事なのだと思って今までやってきた。音楽を作る作業と全く同じだ。未知の音源、御期待ください。
4/3(火)
あの鈴木カツさんより連絡くる。10年ぶりだ。何でも、ひとつライナーをお願いしたいと言われる。ブツはあのレス・ポール。しかも『ニュー・サウンド』!。最近は、すごいブツの依頼が多い。ゲイリー・アッシャー、プレステッジ&ヴァガードのフォーク、ジャック・ニッチェに続き、今回はレス・ポールだ。巻頭リード文なら、ということで、やんわりお引き受けした。カツさん...。フォーク音楽の識者としては、世界でもトップ・クラスのお方、大先輩である。関連書籍は多く、実はほとんどを持っている。10年ほど前、ぼくはカツさんのお店(今は亡き築地の「エニー・オールド・タイム」)を訪ねた....。こんな想い出だ。その頃、ぼくはブエナ・ビスタ周辺(つまりウォルト・ディズニー音源)の復刻ものに、影ながら関係していて、ウクレレ・アイクなんてのも、強行して出したりして、いくつかのアルバムのライナーも手掛けた。ディズニーの音源はぼくが言うまでもなく、素晴らしいものばかりで、特にジョージ・ブランズやシャ−マン兄弟が手掛けたものは外れなしで、これほどウキウキする音楽なんて、世界中にないとさえ思っていた。そんな時、遂に『ジャングル・ブック』の日本盤のライナーを自分で書くチャンスがやって来た。ちょうど、ぼくが『POSH』を作り終わった頃だ。ヴァン・ダイク・パークスが関係していることもあり、夢中で徹夜で書いたなぁ。キプリング原作の『ジャングル・ブック』は、ディズニー映画の中で『南部の歌』と共に人気がないけれど、ぼくの大好きな映画だ。バルーやモーグリという愛すべきキャラクターが登場する映画そのもの、すべてが好きだ。その幸せな「くまの暮らし」は、ぼくの人生観にまで影響を及ぼしている。見ていない方は是非、お薦めする。とても楽しい映画。音楽がこれ又、最高で、『ジャングル・ブック』は、ディズニーにしては珍しく大人っぽいとというか、渋い。エキゾチックかつアーシー&フォーキー&ジャズな世界で、まさにバーバンク・サウンドの趣き。そして、ぼくは、テーマ音楽を書いたテリー・ギルキソンに注目した。ギルキソンをぼくは当時全く知らなかった。だから、ぼくはカツさんのお店へ、この人なら知っているはずと聞きにいったのだ。エニー・オールド・タイムは飲み屋だが、専門的なフォーク関連のレコードがいっぱいで、若いぼくには敷き居が高かった。お店のカツさんは、チャーハンかお好み焼き?か何かを作ってくれて、ぼくのリクエストのイージーライダーズ(テリー・ギルキソン参加グループ)を大音量でかけてくた。嬉しそうに説明してくれた。ぼくはモグモグ食べながら、その説明を聞いた。今でも全く同じだけれど、知らない音楽に出会うと、ぼくは燃える。見知らぬフロンティアを征服したくなる。日頃はぼんやり眠っているカウボーイ魂みたいなものがガバっと起き上がる。その時も、ギルキソンという、バーバンク.サウンドのルーツみたいな音源との出会いに「まだまだこれからだな、この世界、先は長いな...ふっ」とエニー・オールド・タイムの回転ドアを「パタン」とすり抜けた。よく覚えている。「パタン」は、よくウエスタンの映画の酒場に出てくる、木製のあれだ。生まれて始めて経験した「パタン」。ぼくの背でドアはパタン、パタンと揺れた。ロンサム・カウボーイの気分だった。あれからずっと歩いて、歩いて....。もう21世紀。フロンティアは、まだまだ歩き終わりそうもない。おそるべし、アメリカ音楽の世界。
4/4(水)
昼、赤坂コロンビアで福岡史朗くんのプロモーション・ミーティングの後、夕刻、渋谷キリン・シティでP-VINEの塚本くんとコンピの件ミーティングの後、渋谷クアトロへ立ち寄る。あがたさんと栗コーダー・カルテットのジョイント・ライヴ。前半部分、すこし観覧の後、急いで家に帰り、遅れている自分の本の執筆。で、今日はあっと言う間におしまい。
4/5(木)4/6(金)4/7(土)
木曜日から土曜日まで、あっと言う間というか、オフ日のような、そうでないような、完全に昼型に自分の生活サイクルを戻す3日間。オースチンから戻って来て、ものすごい慢性的な時差ボケに、ひどい頭痛の連続のため、「えいやっ」と3日かけて戻したのだが、戻したら、これが極端にすこぶる良い。すごい健康的になって、調子がとても良い。やはり、夜、寝ないと人間はダメか。結果、今は、夜、10時には眠くなり、朝6時起床という、健康的な、じいさんのような、こどものような心身となる。来週、伸び過ぎた髪の毛もバッサリと切ります。

4/8(日)
やってきました。ノアルイズの凱旋コンサート、青山のCAY だ。CAYはデイジーの一昨年のイベント以来。会場に遅れてつけば、すでにリハは始まっている...。ところが、オースチンの時にはあんなに簡単だったサウンド・チェックが日本では、PAの方とコミュニケートが難しい。モニターの回線を変え、マイキングを変え、座り位置を修正し、とにかくすべて直す。ぼくはその間、オースチン/エレファント・ルームでの、ディスコミニケーションな現場の、けれど音楽的な自由な空気を懐かしんだ。本当に、日本の音楽の世界にはナーバスな現場が多い。充分、知っきたつもりだけど、馴れない。ぼくたちは「楽しみ」のために音楽しているのだ。ささやかな「楽しみ」をお客さんと分かち合うため、音楽しているのだ。何故、もっと楽しまないのか。そんなスノッブな空気に残念に思うことが、東京に戻ってから多い。.....本番までの間、楽屋でみんなとふざけながら着替えてると、リトル・クリチャーズの青柳くんが入ってきた。彼も今日、出演なのである。「あっ!青柳くんだぁ」。ぼくは背中越しの彼に思わず呼び掛けた。青柳くんはニッコニッコでプリミティヴに振り返り「いやあ、鈴木さん。いろいろとお話したいことが...」とおっしゃる。何だが、可愛らしいひとだ。さて。そして、本番。ノアルイズを知っているひとは多くはないと思うし、初めて聴くひとも多かったと思うけど、本番は、オースチンでの舞台度胸が付いたこともあって、ダイナミックなステージとなった。良かった。みなさん楽しんでくれた。このわずか半年の間で、ノアルイズのメンバーが体験したステージはこれで10舞台。下北沢QUE/デビュー・ステージ、リーダー/アベくんの結婚式披露宴パーティー、ワールドスタンダード/サロン・イベントの2回、渋谷オン・エアー・ウエスト/ドリームズヴィルのコンサート、NHKホール・ロビー/ティンパンの前座、ボンジュール・レコードの店頭ライヴ、スターパインズ・カフェ/ジェフ・マルダーの前座、テキサス・オースチン/エレファント・ルーム。そして青山CAY。半年前、初めてステージに立つメンバーがほとんどのバンドは、10回のステージで、プロのエンターテイメントの世界に近ずいた。ぼくはそう見てる。普段のふざけた彼らは、ずっと学生のまま、部活動のままだけれど、本番で彼らは見事に変わる。真剣だ。遊びは真剣にやらないと遊びにならない。去年末、細野さんがノアルイズに言ってくれたことを、ぼくたちは忠実に守っている。ノアルイズ・マーロン・タイツは、今、まさに最高のグループだと思う。本当にそうなのだ。今日のイベントでは、途中、ぼくはD.Jも少しやった。タキシード姿のD.Jなんてぼくは見たことない、やったことない。で、D.Jしていると、何やら、ニヤニヤした空気がぼくに注がれる。顔をあげれば、あれま、サザンの関口さん。「偶然、来たら、スズキさん、やってるじゃないのー」「ノアルイズ、酒がグビグビ進むよぉ」なんて言ってくれた。関口さんのこの前の竹中さんとの口笛のレコードは好評に付き、第2弾を計画中....などとも話す。今度はアレンジからやりたいなどとも話す。帰り際、青柳くんと、ちょいと今後のこと密談し、親交を深める。時刻は11時過ぎ。昼型のため、ものすごく眠くなったぼくは、ライト・イン・ダークネスの村上くんに手を振り、CAYを後にした。もう完全に、いわゆる「お眠」状態で、立ったまま起きていられないのだ。なわけで、帰宅後、ベッドで失神。お疲れさまでした、そして楽しかった。