2001年02月28日

disc catalogue: HOSONO BOX 1969-200

〜ホソノ箱とは‥〜

 芸能生活30年。というようなことではない。今までまとまったベスト・アルバムもなく、あってもマトモなものではなかったので、ここで出しておくのが良いだろう。というようなことでもない。つまり周囲の人間が発起し準備し、まとめてくれたのである。
 実際、自らを客観視し、『ベスト』などを選ぶことなどはできない。自分の作った音楽につける評価は厳しいものだ。いやそれ以前に抱くのは、嫌いなものと、まあまあ許せるものと、我ながら良い出来のものとの、3つの感想しかない。しかも出来のいいものなんて極く僅かだから、もとよりベスト盤にはなり得ないのだ。
 このようなことなので、鈴木惣一朗くんを始めとする第三者の耳による選曲には驚かされてまった。「こんな曲が入るの?」という驚きだ。いや、ひょっとすると彼等もアルバムの時間を埋めるため、苦し紛れに選んだのかもしれない。ぼくはそれを確かめることにした。鈴木くんに「本当にそんな曲を入れるの?」と尋ねたのだ。例えばそれは”はっぴいえんど”時代の没テーク、『風をあつめて』のファースト・ヴァージョンのことだったりした。もちろんその希少価値は認めざるを得ないが、やはり没には没の理由があるものだ。松本隆の作詞はまだ初期のころで、熟れてはいない。歌詞のなかのように、ぼくは『お袋』から『手紙』をもらったことなど無いし、だいいちお袋とも呼ばない。それに曲が半端だし、なにより歌が全然歌えていない。このレコーディングの後、A&R担当の小倉栄司氏から『歌が歌えていない』と単刀直入に言われたので、間違いはない。誰が聞いてもそう思うはずだ。しかし鈴木くんは『そこがいい』と言って譲らない。そんなものを入れるのはぼくが死んだ後にして欲しい、とお願いしたものの、一方ではそんなものが死んだ後に出る筈も無く、出すのは今しかないだろうとも思ったのも嘘ではない。事実このような稀少価値のあるトラックを入れれば、アルバム自体にも多少箔が付くというものだ。なにしろ殆どの曲はどうせ自分なりに気に入らないわけなんだから。ここで敢て気に入らないものが一曲増えたところで、どうと言う事もないだろう。もう見栄は捨てたはずだったが、やはりどたん場ともなると出てくるものである。ついでに言えば、選曲に於てまだあと2〜3、つい口出しをしてしまった。YMO時代の『ラップ現象』を省いてもらい、替りに『ケイオス・パニック』にしてもらったりした。こうして選曲に関与していけばきりがないわけだ。まあ最低限の願望を叶えてもらえば良しとしよう。
 もうひとつ言えることは、ぼくの音楽歴はなんと節操がないのだろうということだ。まあ30年もやっていれば様々な局面を持つのも仕方がないが、それでもBOXにまとめようとすると、その無節操さが浮き彫りにされてしまう。しかしそれはそれで、その時代の波に巻き込まれて来たという証しだろうか。無節操で主体性も無いが故に却って背景が見えて来るのなら、無節操もまた良しとしよう。結局ぼくの音楽歴は環境や状況が作ったということになる。戦後生まれの一人の音楽好きに、好きな事をそのままやらせたらどうなるのか、という実験をしたのは何ものだろう?音楽の神様がいるんだ、とでも思う事にしよう。

細野晴臣 東京 2000年1月
posted by dwww at 00:00| 2nd season_1999-2001