2001年01月27日

disc catalogue: TIN PAN

ティンパン。
音に集い、音に生き、音に守られてきたミュージシャンたちの記録。

みんな自然に集まってきた。
大貫妙子は友人から、矢野顕子はFM番組のスタジオで、忌野清志郎は細野晴臣の自宅に電話をかけたときに、久保田麻琴と小坂忠はミーティングに居合わせて、大瀧詠一は対談の席で、今回ゲストで参加したミュージシャンたちそれぞれが、ティンパンのレコーディングの噂を聞き、自発的に、なにかに呼び寄せられるように自然に参加することになっていった。

レコーディングに打ち合わせはなかった。
みんなは譜面もないまま自らのアイディアで歌い、忌野清志郎は2時間で詞を思いつき、大瀧詠一はコーラスの声をCD−Rで提供し、中村一義と高野寛はスタジオの中でコーラス・アレンジをほどこし、ロンドンのデビッド・トゥープはeメールの連絡だけで、幻惑的な物語をDATで送ってくれた。

そんなふうにしてみんなが集り、奇跡のようなレコーディングが出来たのは、参加したミュージシャンたちがティンパンの3人、鈴木茂、細野晴臣、林立夫の響かせる未来に向けた新しいサウンドに惹かれたからだろうか?それとも70年代のティン・パン・アレーの仲間が懐かしかったからなのだろうか?

みんなと同じようにして参加した吉田美奈子がスタジオでぽつりと口にした言葉はこうだった。

 「もし音楽さんという人格のような存在があるとしたら、
         私はその存在に嫌われることなく生きていきたい」

つまり、音楽を裏切ることは出来ないということだ。

このアルバムはティンパンのファースト・アルバムであるとともに、日本の音楽シーンを支えてきたミュージシャンたちの音楽へのリスペクトの記録なのだ。音楽をけして裏切ることなく、慈しみ、希望をたくし続けてきたミュージシャンたちが築いた音のモニュメントなのだ。半年かかってやっと完成したアルバムを聴き終えた時、マスタリング・スタジオの中でこう思った。

「21世紀が来ても音楽の神様は生きている」と。

東 榮一(デイジーワールド・ディスクA&R)
posted by dwww at 00:00| 2nd season_1999-2001